バンチとは「布を束ねた房(=Bunch)」。服地の見本帳のことです。見本用にカットされた服地を素材・着用のシーズン・価格帯等に分類され、本の形にまとめたものです。メーカーや服地商によって製本され注文洋服店に配布されます。
バンチの形態を最初に取り入れたのは1938年創業・べルギーの服地商「スキャバル」といわれています。以下がテーラー専門誌「Bespoken」2008年に掲裁された「THE FINAL TOUCH ( 最後のタッチ ) 」という記事の中の一文です。
既製服が登場する以前、紳士は必ず行きつけのテーラーに立ち寄り洋服をつくりました。テーラーは顧客に見せる様々な生地が必要で店にはあらかじめ一着分にカットされた生地を沢山用意していました。店員は生地をお客様の肩から掛けて、好みのものを選ぶお手伝いをしていました。これを「厄介で高くつく作業」とスキャバルの創設者(当時の会長)であるオットーOtto ハーツHertz 氏は結論付けました。その解決策が「バンチ」でした。バンチに様々な生地を幅広く集めることにより、スキャバルは以前よりかなり多くの色柄・デザインと品質を提供することが出来る様になったのです。
記事のタイトル(THE FINAL TOUCH)は、お客様に対して合理的な・無駄を削ぎ落とした最終的な(究極の)商品提案(プレゼンテーション)のことを指しています。
これまでテーラーや婦人洋裁店などに陳列されていた服地は、売れることを見越してあらかじめ仕入れた服地です。売れ残った服地は在庫になり、経営を大きく圧迫することになります。リスクをカバーするためにオーダー・サロンは高額の価格設定が必要でした。
英国やイタリアの注文洋服店では早くからバンチによるオーダーが一般的になりました。ウール織物の生産拠点も主にヨーロッパ国内でしたので物流も良く、イタリアのテーラーは英国伝統の良質な服地を好んで取り寄せ、英国では裕福でお洒落なテーラーの顧客はイタリアの軽くて美しい服地の洋服を楽しむことが出来るようになりました。
現在では日本でも物流の飛躍的な発達(=国際宅急便)により、過去に比べスピーディー(約一週間)に、安価にカット・レングス(一着分の服地)を海外より空輸することが可能になりました。( 以前は「シップ便」と呼ばれる旅客船の船底に服地を積んで運んでいたため、一カ月以上の時間をいただき取り寄せ、その後、仕立ての作業に取りかかるといった非常に時間のかかるものだったのです。)
多彩なコレクションよりオリジナルの一着をお楽しみしださい
資料提供 スキャバル ジャパン